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高松高等裁判所 昭和32年(く)1号 決定

少年 R(昭和一三・六・三〇生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

附添人弁護士Oの抗告理由は別紙に記載の通りである。

本件における本少年の非行は

(1)  Bと顏見知り者から金を出させようと共謀の上、昭和三十一年十一月十九日午後十時頃愛媛県西条市○町××町○○農機株式会社前路上で電報電話局従業員D(昭和十二年八月二十九日生)を呼び止めて、国鉄西条駅裏路地に連れ込み、被告人は同人に対し金を持つていないか、金がないなら時計を持つているだろうと言い、所持の短刀を同人の腹の辺に突き附け、逃げたら刺すぞ、腕時計を貸せと要求し、同人が応じないので手拳でその顏を一回殴つたが、同人がその場から逃げたため、金品喝取の目的を遂げなかつた。

(2)  昭和三十一年十二月二十七日午後六時頃西条市○町×××○○○○店前路地で○高校生F(昭和十四年十二月五日生)に対し、金を一寸貸してくれと要求し、同人が断るや荒々しい言葉で「何、貸さん、貸さんのであれば後を覚えておれ」と言い、同人をして畏怖させ、よつて現金百円を交付せしめた。

(3)  G・Hと共謀の上、昭和三十一年十二月三十一日午後十一時頃西条市駅前○○通りK子方玄関から黒男短靴一足(時価約二千五百円)を盗んだ。

(4)  G・B・Hと共謀の上、昭和三十二年一月二日午後三時頃西条市駅前○通り質商L方から男用腕時計二個、女用腕時計一個(時価一万三千八百円)を盗んだ。

(5)  G・M外氏名不詳の男と共謀の上、昭和三十二年一月六日午後三時頃愛媛県今治市○○町○○○○○パチンコ店前自転車置場からN所有の運搬用自転車一台(時価約六千円)及び同自転車に附けてあつた日産カマド申込書等在中の鞄(時価約二千円)を盗んだ。

(6)  前示G・M・氏名不詳男の三名と共謀の上、同昭和三十二年一月六日午後九時頃今治市○○町氏名不詳衣料品店で男物空色ズボン一枚を盗んだ。

(7)  Sと共謀の上、昭和三十二年一月二十三日午後十時頃西条市○町×××酒類販売業T子方から清酒一升入り一本(時価五百五円)を盗んだ。

恐喝未遂・恐喝・窃盗の事案である。本少年は昭和三十一年十一月五日松山家庭裁判所西条支部で(1)昭和三十一年十月一日Uと共謀して四回にわたり西条市内で自転車四台を騙取し、(2)同年四月一日・二日、H、Aと共謀して二回にわたり西条市内でスプリングコート一枚・野球用グラヴ一個及び革バンド三本を盗んだ非行により松山保護観察所の保護観察に付せられた直後、前示の通り本件非行を犯し、非行に対する抵抗力の弱さを示しており、以上の外にも昭和三十一年十一月末頃から昭和三十二年一月五日頃までの間何回にもわたつて身内の者所有の自転車・カメラ・背広・ズボン等々を擅に入質している。本少年は中学校三年を卒業しているが、その知能は低く知能指数は七八の限界である。その性格は一見いわゆるおとなしく見えるが、抑うつ性・自己不確実性で、退嬰的で自信に乏しく、徒遊傾向・放浪性は相当慣習化していて、知能が低いが故に正しい判断が出来難く不適応を起しやすくなつている。本少年は父Pとの和合を欠き、父に対し反抗的であり、家を外にし正業に就かず不良と交友し、数々の非行を重ねたもので、中学卒業の年から女遊びを始めている。父P母Q子共に善良な人物ではあるが、本少年に対し十分な補導能力を持つていないようである。諸般の情状上原決定が本少年の性格矯正のために中等少年院送致の惜置を取つたのは、著しく不当な処分と認められない。よつて少年法第三十三条少年審判規則第五十条により主文の通り決定する。

(裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 渡辺進)

別紙一(附添人の抗告理由)

一、原決定が処分の理由として述べている処は「少年は(1)すでに窃盗及び詐欺保護事件により昭和三十一年十一月五日当裁判所より保護観察処分に付されたが少年を更生させることに成功せずはやくも同保護処分後一週間目に本件非行に及んでいることから少年の非行に対する心的抵抗は低くその非行性は相当進行していること(2)家庭は中流であるが父親との折合が悪いため少年は家庭に反抗的逃避的になつていることと相俟ち不良交友放浪の傾向が漸次習慣化するに至つたこと(3)知能は低い方であり、気分の発散がよくできないことから適当な判断による行動ができないことが認められる」とあるが、右(1)の理由について言えば先の保護観察処分の対象となつた少年の非行事実とこの度の少年院送致処分の対象となつたそれとは連続的に一聯の行為として為されたものであり先の保護観察処分の意義についての少年の理解不足から来る惰性的な非行の繰返しに過ぎないことは明白でありその間静かに自己の非行を反省する時間的余裕も無かつた次第であるから之を以つて直ちに非行性の進行を断定するのは余りにも速断にすぎるものと言うべきである殊に原決定の非行事実摘示第二の(4)に明な通り、少年が氏名不詳者に対する窃盗の事実まで卒直に自白している点から見ればむしろ逆に少年の不良化の度合は未だ極めて初歩的段階にあることが充分にうかがわれるものである、従つてこの様な少年に対しては家庭に於ける保護監督の下に少くとも半年乃至一年位の内省期間を与えてその経過を待つの措置を採ることの方が少年院に於ける矯正教育よりもはるかに妥当適切なものであることは多くの事例に照し疑なきところであるから原決定の理由とするところは失当と言わざるを得ない。

次に(2)の理由について言えば少年の父Pは昭和八年以来○○化学工業株式会社資材課に勤務し妻Q子との間にもうけられた長男C(昭和二十七年以来同社職員として勤務)以下R少年を除く三男一女いずれも極めて真面目な青少年なる事実から考えてその家庭は洵に健全なものであることがうかがわれるが殊に別紙上申書の通り両親家族その他関係者一同少年に対する保護監督に万全を期することを誓約している次第であるから原決定のこの点に関する理由も全くの杞憂と言うべきである。(3)の理由として述べられているところは少年の性格を誤解したものである、即ち少年は直情径行型に通有する他人のおだてに乗ぜられ易いお人好しの性格で(本件非行も実情はすべて共謀者のおだてに乗り利用されたものである)かかる少年に対してこそ家庭の保護善導が最も必要な筈である殊に少年が今回の処分により自己の愚かさ加減を骨身に徹して反省させられている現在少年の身柄を健全な家庭の環境に置くことにより必ずやその更生は期して俟つべきものありと確信せられる次第である。

以上の理由により原決定の処分は著しく不当であり取消を免れないものである。

右の通り抗告理由を申述ます。(昭和三十二年三月二十五日 附添人 O)

別紙二(原審の保護処分決定)

主文及び理由

主文

少年を中等少年院に送致する。

押収にかかる匕首一振(当庁昭和三二年領第一一号の一)はこれを没取する。

理由

(非行事実)

少年は

第一 金品を喝取せんことを企て

(一) Bと共謀の上昭和三一年一一月一九日午後一〇時頃、西条市○町××町○○農機株式会社前路上に於て、折柄同所を通行中のDを呼び止め、西条市○町○○町国鉄伊予西条駅裏露路に連れ込み同人に短刀をつきつけ「逃げたら刺すぞ」「腕時計を借せ」と申し向けたがDが逃げ出した為、その目的を達せず未遂に終り

(二) 同年一二月二七日午後六時頃、西条市○町×××○○○○店前露路内に於て、Fに対し「金を借せ」と申し向け断られるや「何借さん、借さんのであれば」とその要求に応じないときは危害を加えかねない態度を示して脅迫し、同人をしてその旨畏怖させ因つて即時同所で同人から現金一〇〇円を喝取し

第二

(一) G、Hと共謀の上、同年一二月三一日午後一一時頃、西条市駅前○○通りK子方玄関に於て同人所有の男黒短靴一足(時価二五〇〇円相当)を窃取し

(二) G、B、Hと共謀の上、昭和三二年一月二日午後三時頃、西条市駅前本通りL方に於て、同人所有の男用腕時計二個(時価合計一二、二〇〇円相当)女用腕時計一個(時価一、六〇〇円相当)を窃取し

(三) G、M、氏名不詳の男と共謀の上、同年一月六日午後三時頃、今治市○○町○○○○○パチンコ店前自転車置場に於てN所有の中古運搬用自転車一台(時価六、〇〇〇円相当)皮鞄一個(時価二、〇〇〇円相当)を窃取し

(四) 前記三名と共謀の上、前記同日午後九時頃、今治市○○町氏名不詳の衣料店々舗内に於て氏名不詳所有の男物ズボン一枚(時価不詳)を窃取し

(五) Sと共謀の上、同年一月二三日午後一〇時頃、西条市○町×××T子方に於て同人所有の清酒(一升入)一本(時価五〇五円)相当を窃取し

たものである。

(適用すべき罰条)

判示第一の(一)の所為は刑法第二五〇条、第二四九条第一項、第六〇条

(二)の所為は刑法第二四九条第一項

判示第二の各所為は刑法第二三五条、第六〇条

にそれぞれ該当する。

(処分理由)

松山少年鑑別所作成の鑑別結果通知書、少年調査票並びに法律記録を綜合すれば少年は(一)すでに窃盗及び詐欺保護事件により昭和三一年一一月五日当裁判所より保護観察処分に付されたが少年を更生させることに成功せず、はやくも同保護処分一週間目に本件非行に及んでいることから、少年の非行に対する心的抵抗は低く、その非行性は相当進行していること(二)家庭は中流であるが父親との折合が悪いため少年は家庭に反抗的逃避的になつていることと相俟ち不良交友徒遊放浪の傾向が漸次習慣化するに至つたこと(三)知能は低い方であり、気分の発散がよくできないことから適当な判断による行動ができないことが認められるので、少年の保護の適正を期するためには少年を少年院に収容し矯正教育を施すのが相当と認め少年法第二四条第一項第三号により、主文掲記の物件につき少年法第二四条の二により夫々主文のとおり決定する。(昭和三二年三月七日 松山家庭裁判所西条支部 裁判官 横田[日今])

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